kenpi20の灰色マインドマップ日記

都内で暮らす会社員のライフログ、現状把握、自己分析

【小説感想その2】 『虐殺器官』(伊藤計劃)――贖罪は自分勝手にしかなりえない

 

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

 

  

■あらすじ
近未来、テロ対策として厳格なID認証制度を採用したアメリカ。
ピザの注文にすら個人認証が必要という不自由さと引き換えに、国内でのテロ行為は激減。
しかし一方で、途上国ではテロや独裁者の暴政が増加するという皮肉な結果を生んでいた。

主人公はアメリカ政府の暗殺部隊の一員。
高度な情報・武器を携え途上国の独裁者・子供兵士を殺害するその仕事は、命の危険は低かったが、精神的な葛藤からは免れられない日々を強要していた。
そんな中、自分たちの作戦から何度も逃げおおせている謎の男の存在に気づく。
男の名はジョン・ポール。彼が訪れた先では、何故か大規模な内乱、および虐殺が生じている。
ジョン・ポールとは誰なのか。彼は何を行っているのか。そして『虐殺器官』の正体とは。

 

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【日記】 ここに映画等の感想かくのやめます

 

ここに映画の感想をかくのはやめにします。

ここは「匿名で書く」ことが目的のブログなので、

感想は、他のもっとオープンなブログで書くことにしました。

 

今までの感想記事もおそらく消していくと思います。

スター等を付けてくれた方々、すみません。

 

このブログでは引き続き、匿名でしか書けないこと(家庭問題や恥ずかしいことなど)を書いていく予定です。

 

 

わがままばっかり言ってすみません。宜しくお願いします。

 

【小説以外感想その3】『家出のすすめ』(寺山修司)―― エネルギッシュでポエティックでセンシティブな若者啓蒙書。

 

家出のすすめ 角川文庫

家出のすすめ 角川文庫

 

 

 

【ジャンル】 随筆(エッセイ)


【初版発行】1972年
【読了時】2015年
【レビュー執筆時】2015年


■この本を読んだ理由

本屋さんで見かけて。

最近観た、寺山修司原作の演劇が面白かったので。


■概要

戯曲家、寺山修司が若者を啓蒙する内容の随筆(エッセイ)。

親を捨てて家を出なさい。公序良俗に反する行為を行いなさい。その他、色々なすすめ。

 


■感想

凄まじい熱量を持ったエッセイだった。

最初の提言が

『Beat, Beat, Beat!  他人の母親を盗みなさい。』

である。

脳みそがとろけそうだ。

 

その後もこうした常識からかけ離れたメッセージが散見するが、それらの意見の根拠は、たいがいが詩である。
要するに論理的な根拠なんて無い。しかし奇妙なのが、作者はそのことを誤魔化していないし、恥じてもいない。「論理的ではない。それがどうした?」とでも言いたげな、圧倒的な勢い。男らしい。

 

大筋としては、「家を、親を捨てろ。まず捨ててから人生の目的を考えろ」「反俗的になれ。常識を捨てろ」といった所だろうか。

こうした力強いメッセージを表しておきながら、それに関する作者の自伝的部分は非常にセンシティブだ。まさに詩人なのである。

よく巷では「詩」や「ポエム」を、「よく分からない難解で痛々しいもの」という偏見で見ることがあるが、寺山修司に限って言えばその偏見は間違っていない。そして彼の提言はそんな世間の(阿呆どもの)意見など突っぱねるだけの強さがある。

要は、それが重要なのではないか。親や周囲、世間の目など気にするな。好きな様に生きろ。そういうことを伝えるために、わざわざ内容というよりも文脈(および文体)という形で強さを見せているのではないか。

 

何にせよ、この脳みそが破壊されるような感覚は、寺山修司以外の文章ではちょっと味わえない。

読んでみてほしい。俗世に依存しな感性というものがどういう物か、分かるはずだ。


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最後にこっそり、ほんの少しだけ、本音も書いておこう。
凄い本だと思う。でも、今の僕にはまだ少し難しかったです。本音おわり。

 

 

【漫画感想その3】 『四丁目の夕日』(山野一)――リアリティもメッセージ性も寓意性も何もない陰鬱な漫画

 

四丁目の夕日 (扶桑社文庫)

四丁目の夕日 (扶桑社文庫)

 

 

【公開年】1985-1986年(全1巻)
【初読時】2015年
【レビュー執筆時】2015年

 

■この漫画を読んだ理由
友人から面白いと聞いて。
ねこぢるの漫画が好きなので。

 

■あらすじ
貧しい町工場の長男である主人公は、貧困から抜け出すために大学受験に向け猛勉強中。
しかしある日、母が事故で全身を焼き入院する。
父は膨れた借金を返すために昼夜問わず働くが、機械に巻き込まれ「ぐっちゃんぐっちゃん」になって死亡する。
主人公は工場と妹達を守るため、大学を諦め工場で働き出す。しかし度重なる不幸の連鎖は止まらない。

 


■感想

ひどい漫画だった。ひたすら陰鬱な漫画。

この漫画から得るものは一つもないと思う。

しかし質の悪いことに、漫画として読みやすい。絵柄も馴染みやすくテンポも良い。それが"被害者"(最後まで読み通す読者)を増やしている。

 


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この漫画が、なぜこんなにも辛いのか。

家族が死に、大学を諦め、劣悪な労働環境に精神が歪み、周囲に馬鹿にされ、執拗に執拗に虐められ、貧困に押し潰される主人公。

この作者が最も残酷な点は、主人公を死なせない点だ。

この主人公の人生は、明らかに死よりも辛い。
こんな人生は生きているだけ無駄だ。

 

しかし人間はそう簡単に死ねない。

当初、主人公には妹と弟が居て、死ぬより辛い状況で働くしかなかった。
彼らが死んでからも、狂人として生き続けざるを得なかった。
そして精神病院を出ても彼は死ねない。ラストシーンでは「かけがいのない第二の人生のはじまり」が描かれる。

これこそが地獄である。

 

彼が救われる最も簡単な方法は、妹たちと首を吊ることだっただろう。そうとしか思えない。

この世界には、それほどの地獄が存在する。

 


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「それほどの地獄が存在する」と書いたが、果たしてこの物語にリアリティはあるか?

全体を通してみれば、無い。


確かに、個々のエピソードは現実的だ。

例えば、印刷機に引きずり込まれてぐちゃぐちゃになって死ぬ事故。

葬式に現れて死体を蹴る借金取り。

人に見放され借金だけを残し倒産する会社。

真冬の大雨の中、カッパも貸してもらえずにバイクで走らされる労働環境。

死んだ父親に関して、「なあ、ぐっちゃんぐっちゃんだったんだろ?」と執拗に聞いてくる悪質な同僚。

金持ちになびく恋人。ひたすら庭に殺虫剤を撒く狂人。狭く汚い食堂。食事に事欠く程の貧困。

 

全て、実在する。

特にこれらは、一度人生を踏み外すと、意外とすぐに忍び寄る。

こうしたエピソードのリアリティは、人生で辛酸を嘗めたことがあればあるほど増すだろう。


しかし全体を通してみれば、この物語は非現実的と言える。

これほど不幸が畳み掛けることは珍しいからだ。

月並みなことを書くが、この世界には善人も存在する。これは願望ではなく事実だ。

この漫画は、その事実を敢えて伏せている。

 

借金は整理できる。未成年の主人公は保護を求めることが出来る。会社など畳めばいい。

主人公が幸福になれるかは別として、ここまでの不幸を描くことは非現実的だ。

 


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では、この作品にリアリティが無いとして、他に何かがあるのか?

それが、何もないのである。

この物語にメッセージ性はない。カタルシスもない。社会批判も寓意性もない。

ただ強烈に暗い。それだけだ。

 

作者の言いたいことは、特に無いだろう。

貧困の中で鬱々と人生をイメージしていて、それを紙の上に具現化しただけだ。

何かを主張している訳でも批判している訳でもない。

深く考えずに、表層を、つらい描写を素直に感じ取れば良いのだと思う。

 

 

■主観的な感想

最後に、非常に個人的な切り口で感想を書こう。

僕は今、新入社員として工場研修に来ている。

「現場を知る」という名目で、工場の作業員として半年間働きに来ているのだ。
昼勤と夜勤を繰り返し、現場の人たちに怒られながら機械を回している。

 

はっきり言って、かなりしんどい。

完全な肉体労働で、支給される弁当はまずく、職場に会話はない。

常に足が痛くて、機械はうるさく、忙しくて今が昼なのか夜なのかもよく分からない。

仕事おわりには疲れていて、米が喉を通らない。

 

そんな状態でこの漫画を読んだので、かなり心に来た。

現場の人々のことを思い出した。僕はあと数ヶ月でこの現場を去るが、高校を出てから定年までずっと工場で昼勤・夜勤を繰り返して過ごす人々は確かに居る。


僕は、いわゆる差別意識はないつもりだ。職業に貴賎はないと思っている。

しかし、工場の仕事はきつい。

騒音を鳴らす機械の操作はとても危険だ。有害な溶剤をよく肌に浴びる。外へ荷物を運ぶ時、雨が降っていたら濡れるしかない。

台風の中、ずぶ濡れで倉庫まで台車を押した時、僕は本当に辛く哀しい気持ちになった。自分がゴミのような存在だと思えた。

 

これは、貴賎とか平等とかそういう問題ではない。

工場の仕事は辛い。それは事実だ。

この漫画は、綺麗なタテマエの奥にある「嫌な方の事実」だけをまざまざと見せつけてくる。

 

もう見たくないと思った。

僕は読み終わった日、この漫画を捨てた。

 

 

 

【小説以外感想その2】『ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方) 』(竹信三恵子) ――「格差は放っておくと拡大する。」ピケティの本当に短い概説と、ほぼ関係ないアベノミクス批判

 

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

 

 

 

【ジャンル】 経済書


【公開年】2014年
【読了時】2015年
【レビュー執筆時】2015年


■この本を読んだ理由
ビジネス書好きの上司との話題作りのために(笑)。
経済書を読むのはほぼ初めて。*1
ピケティの『21世紀の資本』を読みたかったが、先に短めのこちらを手にとった。

 

■感想

たまには経済書を……という軽い気持ちで手にとった本書だが、僕は結構楽しめた。

経済書というものをほぼ初めて読んだからかもしれない。

 

内容としては、序盤はピケティ『21世紀の資本』の簡単な概説、後半はそれになぞらえたアベノミクス批判だ。
しかし後半は全くといっていいほどピケティは関係ないので、そこは思い切って無視する。本当に安倍内閣の現状を批判しているだけだからだ。

 

という訳で、序盤のピケティ概論を僕なりにまとめると以下のようになる*2


・経済格差は、放っておくと拡大する。現状、資本に基づく利益が多いからだ。つまり金持ち(とその子供)が更に金を得る構造になっている。

 

・ちなみに、「資本を得る」という恩恵は、能力に比例すると思われがちだが、そうではない。幸運(景気など)による収入も多分にあるし、上層の役員の方が儲かりやすいシステムが出来上がっているからだ。

 

・経済格差が拡大すると、政治を(選挙費用をふんだんに使える)富豪に乗っ取られ、貧民のための制度がなくなり経済は破綻する。

 

・経済格差拡大を防ぐ具体案として、「累進課税*3の徹底」と「国際レベルでの資本税の導入」である。
 これにより、富豪の資本を貧民に還元できるだけでなく、「富豪になることの意欲」も削げる。

 

・上記の案は夢物語に聞こえるかもしれないが、それに向けて少しずつ政策を変えていくことは出来るはずだ。

 

 

こんな所だろうか。

 

個人的には「格差は『仕方ない』事ではない。放っておくと経済が破綻するし、また格差は修正が可能である」という理論自体に驚いた。

格差は仕方のないものなんだと思って諦めていた。洗脳されていたとも言える。

しかし実際、格差は能力の差だけで生まれる訳ではないし、生まれ持った格差が是正できるならその方がいい。

 

お金が足りなくて進学出来ない人は実際にたくさん居る。奨学金の返済に苦しむ人も知っている。

経済の話はどうにも暗い方向に行くが、それが改善できるかもしれないのなら手を打つべきだろう。

 

このように、僕の観測範囲内の生活と「経済」なんてものが繋がっていることや、それを改善できるかもしれないことも新鮮だった。

 


何にせよ、ちょっと経済に興味が湧いてきたので、時間があったら読んでみようかな、と思っている。それがこの本を読んだ一番の収穫だった。

いつか、ピケティの『21世紀の資本』もちゃんと読もうと思う。とりあえず、この本だけで「ピケティ大体知ってるよ」とは言えない。当然だが。

 

 

 

 

*1:つまり、この感想記事は、「初心者の感想」だと思って楽しんで頂けると幸いです。予防線ではなく本当に。

*2:竹信氏と僕の主観が盛り込まれているので鵜呑みにしないように。あくまで僕の読み取った文意です。

*3:お金持ちから余分に税金を取るシステム

【漫画感想その2】 『ピンポン』(松本大洋) ――人生にはヒーローと努力が必要だ。

 

 

ピンポン(1) (ビッグコミックス)

ピンポン(1) (ビッグコミックス)

 

 

【公開年】1996-1997年(全5巻)
【初読時】2015年
【レビュー執筆時】2015年 

 


■あらすじ

舞台は高校卓球界。

天真爛漫で自惚れ屋の少年・ペコは、インターハイ予選にて惨敗。

一方、冷静沈着な幼なじみ・スマイルは、その秘めたる才能を見出され注目されていく。

現状を直視できず鬱屈していくペコ。着実に成長しつつペコの復活を待つスマイル。人一倍努力家だが才能に恵まれないアクマ。絶対王者にして常勝の孤独を味わうドラゴン。

彼らは1年後のインターハイ予選で再会する。

 


■感想

 

とても面白かった。

長所を挙げたらキリがないが、一番の魅力は漫画的な画にある。

緊張感のある試合風景、『間』を意識したコマ割りによる心理描写、心情と表情にコマを割くセンス。

読み進めるスピードの操作が上手いのだろう。

『読んでいて面白い』漫画だ。ワクワクしながら最後まで読んでしまった。

 


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また、言うまでもないことだが、ストーリーも良い。

『才能』というテーマが僕は好きだし、『ヒーロー』も好きだ。

 

この漫画の特徴として、主人公に負けた選手が、皆晴れやかな顔で去っていくという点がある。

彼らは試合を通して優劣を知る。彼らは一様に最大限の努力をしてきたから、それは単純に才能の優劣だ。

そのことをお互いに分かっている。だから笑える。全力で努力をした結果、自分がどこまで行けたのか。そして自分の上にはどんな選手が居るのか。

彼らは負けることで『ヒーロー』を得る。

 

人生にはヒーローが必要だ。

外部にヒーローが居るのでもいいし、「オレがヒーローだ」と思うのでもいい。

何かに純粋に憧れる、という事が、人間には必要である。

そしてそのためには、まず自分が努力を重ねなければならない。

 


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僕が一番好きなキャラクターはアクマだ。

作中で一番の努力家だが、才能に恵まれないアクマ。

中盤、スマイルに敗北したアクマは叫ぶ。

 

「どうしてお前なんだよっ!? 一体どうしてっ!!
俺は努力したよっ!! お前の10倍、いや100倍1000倍したよっ!
風間さんに認められるために!! ペコに勝つために!!
それこそ、朝から晩まで卓球の事だけを考えて……
卓球に全てを捧げてきたよ、なのにっ…………」

 

この絶叫が何故生まれたか。

努力がいつか勝利に繋がると信じていたからだ。それが自分わ救ってくれると信じていたからだ。

しかし違う。努力は必ずしも勝利に繋がらない。

そして勝利が人を救う訳でもない。

 

勝利を追い求めることこそが人を救うのだ。言い換えると、努力を重ねること自体が自分を救う。

アクマは敗北して卓球から離れることで、それに気付く。

だからペコに復帰を薦めた。

「勝て」とは言わない。「努力しろ」と言う。

勝敗に関わらず、努力をすることが人を救うと、誰よりも深く知っているからだ。

 


この漫画で成長したのはペコだけじゃない。スマイルも、アクマも、チャイナも、ドラゴンも成長した。だから笑顔になった。

 

人生にはヒーローと努力が必要だ。

そういう力強いメッセージに溢れた、良い漫画だった。

 

 

 

【漫画感想その1】『海街diary』(吉田秋生) ――人と人が積み上げていくものを丹念に描いた傑作

 

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

 

 

 

【連載年】2006年~連載中(既刊6巻)
【初読時】2015年
【レビュー執筆時】2015年

 

■この漫画を読んだ理由

知り合いの女性に薦められて。


■あらすじ

鎌倉で暮らす社会人三姉妹の元に、幼い頃に生き別れた父親の訃報が届く。
父との思い出も薄く、あまり実感が湧かないままの葬式で、彼女達は腹違いの妹・すず(13)に出会う。

最期まで一人で父の介護をしたすずを見て、彼女達は父の死を実感して涙し、すずを鎌倉の家に招き入れる。

それぞれが人間関係の危うさに触れながらも、四姉妹は海の見える街で日常を歩んでいく。

 

 

■感想

素晴らしい漫画だった。ここ数年で読んだ漫画の中でベスト。


最初の3ページで面白いことが分かる。その後、最新の6巻まで泣きながら一気に読んでしまった。


この作品の一番の魅力は、人間の描写の巧さだろう。

設定にリアリティがある訳ではないのだが、人格にリアリティがある。

特に、人間の「気遣い」の描写が上手すぎる。

これだけ思慮深く他人を想える人間がいる(描ける人間がいる)ということは、僕にとって大きな希望になった。

 


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登場人物達の状況は決して明るくないのだが、それでも彼女達には笑いが絶えない。

そのアンバランスさが、妙にリアルだ。

 

例えば、病気で足を切断してしまうサッカー少年が登場する。当然彼は落ち込み周囲も動揺するが、退院した彼は明るく振る舞い、周囲も明るく流す。人間関係が壊れる訳ではない。

とはいえ問題は深刻だ。堪えきれずに人に当たってしまうこともある。それを見て、周囲も現状の深刻さを思い出す。

それでも人間関係が壊れる訳ではない。

この塩梅が絶妙なのだ。

 

今日明日という日常生活は、実は簡単に壊れるものではない。

例えばだが、10年連れ添った恋人に振られても、人は次の日に会社に行く。

それは鈍感だからではない。今日明日の生活もまた人生の本番だからだ。

 

作中の男性が、主人公たちの家を見て「いろんなものがつまっている感じだね」と言う。

この台詞が、この漫画を象徴していると思う。


人は日々、確かに何かを積み上げていく。これは微々たるもので、目には見えないものだけれど、重大な事件が起きた時に心の支えになるのは、そうした「積み上げてきたもの」なのだろう。

 


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個人的な感想だが、僕はこの漫画を読んで

「やはり女流作家には一生勝てないのではないか」

と思ってしまった。

 

見えている世界が違いすぎる。戦っているフィールドが違いすぎる。

人間というものを観るセンスに差がありすぎる。

それに、事件(時間的スパンに短い出来事)ではなく、関係の「積み上げ」(時間的スパンの長い出来事)を描くのは本当に難しい。
これももう本当にセンスとしか言いようがないのではないか。

 

僕も今後、経験や勉学を積むことで、こうしたものが描けるようになるのだろうか?

正直言って、そんな未来はあまり思い描けない。

そんな絶望的な気持ちになるほど、この漫画の完成度は高かった。

 


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まあ、そんな僕の個人的な感傷は置いておくとして、

『海街ダイアリー』は、笑って泣けるとても素晴らしい作品だ。

男性にも女性にも、大人にも子供にも広くおすすめしたい。

 

この作品に限っては、いくら褒めても「ハードルを上げ過ぎた」ということにはならないだろう。

この素晴らしい作品に出会えて、本当に良かった。