【公開年】1996-1997年(全5巻)
【初読時】2015年
【レビュー執筆時】2015年
■あらすじ
舞台は高校卓球界。
天真爛漫で自惚れ屋の少年・ペコは、インターハイ予選にて惨敗。
一方、冷静沈着な幼なじみ・スマイルは、その秘めたる才能を見出され注目されていく。
現状を直視できず鬱屈していくペコ。着実に成長しつつペコの復活を待つスマイル。人一倍努力家だが才能に恵まれないアクマ。絶対王者にして常勝の孤独を味わうドラゴン。
彼らは1年後のインターハイ予選で再会する。
■感想
とても面白かった。
長所を挙げたらキリがないが、一番の魅力は漫画的な画にある。
緊張感のある試合風景、『間』を意識したコマ割りによる心理描写、心情と表情にコマを割くセンス。
読み進めるスピードの操作が上手いのだろう。
『読んでいて面白い』漫画だ。ワクワクしながら最後まで読んでしまった。
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また、言うまでもないことだが、ストーリーも良い。
『才能』というテーマが僕は好きだし、『ヒーロー』も好きだ。
この漫画の特徴として、主人公に負けた選手が、皆晴れやかな顔で去っていくという点がある。
彼らは試合を通して優劣を知る。彼らは一様に最大限の努力をしてきたから、それは単純に才能の優劣だ。
そのことをお互いに分かっている。だから笑える。全力で努力をした結果、自分がどこまで行けたのか。そして自分の上にはどんな選手が居るのか。
彼らは負けることで『ヒーロー』を得る。
人生にはヒーローが必要だ。
外部にヒーローが居るのでもいいし、「オレがヒーローだ」と思うのでもいい。
何かに純粋に憧れる、という事が、人間には必要である。
そしてそのためには、まず自分が努力を重ねなければならない。
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僕が一番好きなキャラクターはアクマだ。
作中で一番の努力家だが、才能に恵まれないアクマ。
中盤、スマイルに敗北したアクマは叫ぶ。
「どうしてお前なんだよっ!? 一体どうしてっ!!
俺は努力したよっ!! お前の10倍、いや100倍1000倍したよっ!
風間さんに認められるために!! ペコに勝つために!!
それこそ、朝から晩まで卓球の事だけを考えて……
卓球に全てを捧げてきたよ、なのにっ…………」
この絶叫が何故生まれたか。
努力がいつか勝利に繋がると信じていたからだ。それが自分わ救ってくれると信じていたからだ。
しかし違う。努力は必ずしも勝利に繋がらない。
そして勝利が人を救う訳でもない。
勝利を追い求めることこそが人を救うのだ。言い換えると、努力を重ねること自体が自分を救う。
アクマは敗北して卓球から離れることで、それに気付く。
だからペコに復帰を薦めた。
「勝て」とは言わない。「努力しろ」と言う。
勝敗に関わらず、努力をすることが人を救うと、誰よりも深く知っているからだ。
この漫画で成長したのはペコだけじゃない。スマイルも、アクマも、チャイナも、ドラゴンも成長した。だから笑顔になった。
人生にはヒーローと努力が必要だ。
そういう力強いメッセージに溢れた、良い漫画だった。