kenpi20の灰色マインドマップ日記

都内で暮らす会社員のライフログ、現状把握、自己分析

【演劇感想その1】『糸、あと、音。』(制作:『時々、かたつむり』) ――SF門外漢が描く,それ故にちょっとユニークなディストピア物

 

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【会場】小劇場 楽園
【出演】二ツ森恵美、高橋綾乃、吉田のゆり、高橋実友、三村萌緒、森原彩夏、他
【脚本・演出】菅原達也
【舞台監督】 小川陽子
【演出部】 イサカトモフミ、小川鮎化
【音響】 イサカトモフミ
【照明】 古橋瞳
【宣伝美術】 小川原可菜
【制作】 小林美穂、島崎雅大
【公開年】2015年

 

【視聴時】2015年
【レビュー執筆時】2015年

 

 

■この演劇を観た理由

ポスターに惹かれて。
お盆に東京に帰ることになり、何か演劇を見たくなったので。

ちなみに、僕は演劇関係者ではない。スタッフの知人でもない。
また、観客としても初心者である*1

 

■あらすじ
時は近未来。舞台は、天候を管理する目的で建てられた超高層タワー。
タワーの運営を司る思念体は、タワーの中に生活の全てを用意することで、人類を幸福へ導こうとしていた。
そしてその計画は順調に進み、飲食店・商業施設など全てが揃ったタワーの中で、人類の大部分が過ごすようになる。

しかしそんな刺激のない人生に満足するほど、人類は単純ではなかった。
タワーの外の世界に戻りたがる女性。タワーの中で占い師として生きる女性。タワー外の生活を捨て、アナウンサーとして活躍する女性。思念体によって作られ、業務を実行する女性。そして、頑なにタワーの中で入ろうとしない女性。

彼女たちの思惑が交錯する中、大洪水が巻き起こる。

 


■感想

※あくまで正直に書くので、批判的なことも書きます。すべて個人の感想です。ご了承下さい。

 

現代演劇には珍しく、SFで、しかもディストピア物である。
とはいえ、「作られた理想郷(とその闇)」という設定は、SFとしてはかなりベタだ。
火の鳥未来編やパラノイアなど。タイムマシンなども広い意味ではそうか)

少し特殊なのは、占い師という非科学的な商売が存在していたり、アナウンサーを未だに人間がやっていたりする部分だろうか。
要するに、まだそこまでガチガチの理想郷が出来ていない世界な訳だ。

勝手な想像だが、この「微妙な理想郷」という設定は、狙ってやった訳ではなく、脚本家がSFをあまりよく知らない*2ため生じたのではないかと思う。が、まあ、そこがユニークな点なので結果としては良かったかなと思う。

 

もう一点、いわゆるSF作品と違い特殊なのは、設定の説明をあまりしないという点だ。
タワーを管理する思念体の正体も不明だし*3、思念体が作った少女二人の正体も不明だ。
そもそもタワーの構造(高さや収納人数)もよく分からないし、どのように管理されているのかも不明。
これも脚本家がSFに詳しくないからだろう。
こうした要素を説明しなくても成り立つのは、演劇という媒体ならではだろう。
私見だが、演劇は「説明しないまま進む」という脚本に強いと思う。最後まで説明しなくてもいい。劇場で「よく分からないこと」を肌で感じるのが楽しいのだ。SF小説SF映画ではそうはいかない。*4
この点が最も楽しかった。

 

だが、「脚本家がSFに詳しくない」故に良くない点もあった。
ラストである。
この話のラストは、(ネタバレ反転→)「結局タワーの理想は否定され、人の繋がりの重要性が説かれ皆が救われる」(反転ここまで)という物だが、これはあまりにもベタだ。そしてそこに至るまでの犠牲も少なすぎる。曲がりなりにもディストピア物を描くのなら、過去の作品とは違う結末か、ベタな結末を補う展開・演出が必要となるだろう。
一言で言うと、安易にSFに手を出してしまったのでは、と感じた。

 

*

 

他の点についていくつか。

前述の「説明しないまま進む」という話と被るが、
最初10分ほど、場所も時代も説明せずに話が進んでいくところがとても好きだった。
人造人間らしき女性二人が詩のようなものを読み上げている冒頭などはかなり好き。
物語とはあまり関係なく挿入された、可愛らしいダンスも結構好き。女性たちが真顔で、ニワトリの真似のような振付を踊るのは単純に可愛らしい。この話に必要なのかは全く分からないが。

 

逆に言うと、開始10分くらいで、堰を切ったように「タワーが作られた理由」などが説明されたが、ああした説明はもっと後でもいいかもしれないと思った。すなわち、30分とか45分くらい、状況説明なしで女性たちの会話を聴かせるのだ。
その方が僕好みだが、しかし、その後のキャラクター描写が少なすぎると感情移入出来ないかもしれない。難しいところだ。

 

最後に役者さんについて。若い女性ばかりを用いるというのは、商業的なあざとさは感じるけれど、確かに見栄えはする。若い女性ばかり出てくる割には、脚本もまあ無理は無かったと思う。演技については特にコメントはない。

占い師役の吉田のゆりさんが綺麗だった。今後に期待。*5

 

最後の最後に、今回の開催地『小劇場 楽園』について。
地下の劇場なのだが、なんと観客席が二方向に分かれている。劇場を囲う四方向のうち、二方向が観客席なのだ。"第四の壁"も何もあったものではない。
これは、いかにも演技しにくいだろうなあ。この形状を利用した演劇……というのもあまり思いつかない。しかしユニークなのは良い事だと思う。多分。

 

*

 

感想は以上。

「安易にSFに手を出したな~」というネガティブな部分と、「SFをよく知らないが故にこう出来たのか」というポジティブな部分がある演劇だった。

 

またこの脚本家の作品を見ることがあったら、おそらく今度はSFではないだろう。
それを見たら、またこの作品に対する感じ方も変わってくるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

*1:まだ演劇を5つしか見ていない。

*2:インタビューで仰っていた

*3:後のトークで少し語っていたが作中では言及なし。

*4:完全な私見で、根拠はありません。

*5:演技がどうとかではなく単純に好みの話だ。……下世話な感想でごめんなさい