今日は忙しいので手短に。
久しぶりに工学の話をしよう。
今日の話は、トイレで有名な『株式会社TOTO』の新製品、「エアインシャワー」と、その開発プロセスについてだ。
これが非常に論理的で素晴らしかったので紹介したい。
まず最初に、「エアインシャワー」とは、風呂場で使う家庭用シャワーの新製品である。
エコの観点から、従来より35%の節水を実現しつつ、浴び心地は今まで通りという不思議な商品だ。
その秘密は、「エアインシャワー」から出る水の粒にある。
使用中は気づかないが、実は「エアインシャワー」の水の粒の中には、空気(気泡)が入っているのだ。
それによって、今までと同じように水が出ているように感じても、その気泡の分だけ節水ができている、という仕組みである。
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この技術を開発するに至ったプロセスが、非常に工学的で素晴らしい。
まず、プロジェクトチームは上層部にこのような要請をされた。
「使用する水の量を減らしつつ、浴び心地は従来通りというシャワーを開発しなさい」
この難題に対し、プロジェクトチームが最初に行ったことは、
「"浴び心地"という評価手法の定量化」
だった。
つまり、"浴び心地"というつかみ所のない物を、分かり易い形で言い換える(数字で表す)ことが出来るかを考えたのだ。
実験の結果、まず彼らがたどり着いたのは、
"浴び心地"= 一秒間に体に当たる水の量
という法則だ。多くの水が体に当たれば、浴び心地が良いという結果が出た。
これを言い換えると、こういうことになる。
"浴び心地"= 一秒間に水が当たる表面積の大きさ
つまり、体の広い部位に水に当たればいい。
シャワーの立場になって考えると、
"浴び心地"= (一秒間に出る粒の数)×(1粒の表面積)
となる。
ここで、前提となる「使用する水の量を減らす」という目標を思い出そう。
「水の量」とは何だろうか。これを式に表してみると、
"水の量"= (一秒間に出る粒の数)×(1粒の水の体積)
ということになる。
さて、ここで2つの式に違いがあることに気付いただろうか。
そう、"浴び心地"は粒の「表面積」で決まるが、"水の量"は粒の「水の体積」で決まるのだ。
この調査結果を基に、上層部に言われた課題である「水の量を減らし、浴び心地は従来通り」を言い換えると
「水の粒において、水の体積を減らし、粒の表面積は従来どおり」
ということになるのだ。
ここまで来て、プロジェクトチームは思いついた。
「従来どおりの表面積を実現するために、水の中に空気の泡を入れよう。
これなら、水の体積は少なくて済む」
こうしてエアインシャワーは完成した。
この開発プロセスで素晴らしい点は、最後の、「思いついた」という点ではない。
最初の、"浴び心地"を数字で表そうとした点だ。
このような、問題を分かりやすく数字に落としこむことで、問題点を分かりやすく表在化させるという手法。
これがまさに工学の第一歩だと言える。
良い発想は、突然は生まれない。
着実な理論の上で成り立つのだ。