海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)
- 作者: 吉田秋生
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/03/05
- メディア: Kindle版
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【連載年】2006年~連載中(既刊6巻)
【初読時】2015年
【レビュー執筆時】2015年
■この漫画を読んだ理由
知り合いの女性に薦められて。
■あらすじ
鎌倉で暮らす社会人三姉妹の元に、幼い頃に生き別れた父親の訃報が届く。
父との思い出も薄く、あまり実感が湧かないままの葬式で、彼女達は腹違いの妹・すず(13)に出会う。
最期まで一人で父の介護をしたすずを見て、彼女達は父の死を実感して涙し、すずを鎌倉の家に招き入れる。
それぞれが人間関係の危うさに触れながらも、四姉妹は海の見える街で日常を歩んでいく。
■感想
素晴らしい漫画だった。ここ数年で読んだ漫画の中でベスト。
最初の3ページで面白いことが分かる。その後、最新の6巻まで泣きながら一気に読んでしまった。
この作品の一番の魅力は、人間の描写の巧さだろう。
設定にリアリティがある訳ではないのだが、人格にリアリティがある。
特に、人間の「気遣い」の描写が上手すぎる。
これだけ思慮深く他人を想える人間がいる(描ける人間がいる)ということは、僕にとって大きな希望になった。
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登場人物達の状況は決して明るくないのだが、それでも彼女達には笑いが絶えない。
そのアンバランスさが、妙にリアルだ。
例えば、病気で足を切断してしまうサッカー少年が登場する。当然彼は落ち込み周囲も動揺するが、退院した彼は明るく振る舞い、周囲も明るく流す。人間関係が壊れる訳ではない。
とはいえ問題は深刻だ。堪えきれずに人に当たってしまうこともある。それを見て、周囲も現状の深刻さを思い出す。
それでも人間関係が壊れる訳ではない。
この塩梅が絶妙なのだ。
今日明日という日常生活は、実は簡単に壊れるものではない。
例えばだが、10年連れ添った恋人に振られても、人は次の日に会社に行く。
それは鈍感だからではない。今日明日の生活もまた人生の本番だからだ。
作中の男性が、主人公たちの家を見て「いろんなものがつまっている感じだね」と言う。
この台詞が、この漫画を象徴していると思う。
人は日々、確かに何かを積み上げていく。これは微々たるもので、目には見えないものだけれど、重大な事件が起きた時に心の支えになるのは、そうした「積み上げてきたもの」なのだろう。
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個人的な感想だが、僕はこの漫画を読んで
「やはり女流作家には一生勝てないのではないか」
と思ってしまった。
見えている世界が違いすぎる。戦っているフィールドが違いすぎる。
人間というものを観るセンスに差がありすぎる。
それに、事件(時間的スパンに短い出来事)ではなく、関係の「積み上げ」(時間的スパンの長い出来事)を描くのは本当に難しい。
これももう本当にセンスとしか言いようがないのではないか。
僕も今後、経験や勉学を積むことで、こうしたものが描けるようになるのだろうか?
正直言って、そんな未来はあまり思い描けない。
そんな絶望的な気持ちになるほど、この漫画の完成度は高かった。
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まあ、そんな僕の個人的な感傷は置いておくとして、
『海街ダイアリー』は、笑って泣けるとても素晴らしい作品だ。
男性にも女性にも、大人にも子供にも広くおすすめしたい。
この作品に限っては、いくら褒めても「ハードルを上げ過ぎた」ということにはならないだろう。
この素晴らしい作品に出会えて、本当に良かった。