kenpi20の灰色マインドマップ日記

にわか作家志望(某メーカー研究職、新入社員)による、現状把握・思考整理

【演劇感想その2】『光陰』(制作:岡山大学演劇部) ――重いテーマの脚本に,廃小学校という会場で挑む

f:id:kenpi20:20150907113326j:plain

 

【会場】旧内山下小学校 音楽室2(第2資料室付) (2F2-13)
【作】 塚本 健一
【演出】 宮崎由理
【出演・スタッフ】岡山大学演劇部*1
【公開年】2015年 9月
【視聴時】2015年 9月
【レビュー執筆時】2015年 9月

 


■この演劇を観た理由
郵便局前駅の周辺をぶらぶらしていたら、当公演のポスターを見つけたので、その足でふらっと行ってみることにした。

ちなみに、僕は演劇関係者ではない。スタッフの知人でもない。
また、観客としても初心者である。*2


■あらすじ
保育所で働く女性・エリに異変が起きた。

エリの恋人は、その原因が「10年前の事件」にあると考え、真相を知るためエリの実家を訪れる。

10年前、エリの姉は強姦の末、殺された。
事件はとっくに解決したと思われていたが、どうやらそうでもないらしい。

そして明らかになる、当時の家庭不和、家庭内暴力

10年前、何が起きていたのか。そしてエリに起きた異変とは何か。エリの心にはどんな傷が残っているのか。

真相は10年越しに明かされ、また閉じていく。

 


■感想
※あくまで正直に書くので、批判的なことも書くかもしれません。すべて個人の感想です。ご了承下さい。

 

まず、この演劇は既製脚本である。なので脚本とそれ以外の部分について、分けて感想を書こうと思う。
(厳密には、どこまでが既製でどこまでが製作物なのかよく分からないけれど……その辺は適当に)

 

□脚本について
学生演劇とは思えないクオリティだ! と思っていたが、既製脚本だと聞いて納得。それだけ骨太だった。

重いテーマを、ギャグに逃げずに90分もたせるのは立派。というか、大学サークルが公演でこのような題材(の脚本)を選び、演じたことが立派である。


しかし、脚本について気になる点がいくつかあるので書いておく。

まず、「10年前の事件には謎が残っている」ということを最初に明示しておけば、話にとっつきやすくなると思う。
これがないと、話のオチがどこにあるのか、何に向かっているのかよく分からなくなる。

また、真相の判明方法も雑だ。推理や伏線もなく、記者が「僕の調べによると○○だ」と唐突に言う。これでは納得できない。本格ミステリであれとは言わないが、従兄弟の台詞などで、それらしい描写を入れると、謎が明かされる楽しさを観客も味わえると思う。

そしてラストだが、エリが救われたかどうかが曖昧なまま終わってしまうのが消化不良に感じた。
ハッピーエンドでもバッドエンドでも良いが、一連の騒動によって人間(エリ)は変化した*3、という点があると、物語に意味が生まれ、面白くなると思う。

さらに言えば、その変化が、奔走した恋人によるものであれば尚すっきりする。

あとは倫理の話だが、「家庭内暴力は世代を超えて繰り返される」ということが、自明の事実として使われていることに違和感を覚えた。
この言説は、確かに一般的によく言われる話だが、100%起こる訳ではない。そしてこれはナイーブな問題なので、取り扱いには注意しておくと、観客に優しい物語になる。

 

まとめると、ありきたりな言葉になってしまうけれど、起承転結*4をハッキリさせると、テーマを考えさせる物語になると思う。

 


□脚本以外について。
演技・スタッフは演劇部の面々によるものである。

 

まず、女性陣の演技が良かった。
特にキョウコ役。憎たらしい役だったが、それ以外も出来る役者さんなんだろうなという印象。*5
アサオカ役も良かった。大人びた性格で、感情の変化もあり、難しい役だっただろう。練習の成果が出ているように見えた。
他の役者も含め、今後の活躍に期待したい。

 

音楽は、BGMを多用しないのは得策だったと思う。ラスト以外は、蝉の音と時間を巻き戻す音くらいか。それで良いと思う。

 

照明は、真っ暗になるのは最初と最後だけで、その他の場面転換は薄暗い中で堂々と行われていたが、これは別に毎回真っ暗にすればいいのではないかと思った。
劇場ではないから、慣れていない観客(や子供)への配慮だったのだろうか。それならそれで良いと思う。

 

その他、スタッフの皆さんに不備はなかった。学生演劇ではこれが案外難しい。非常に良かったと思う。お疲れ様でした。

 

 

□会場について
今回の会場は、廃校になった小学校「旧内山下小学校」の音楽室だった(!)。
地元民でもないのでよく知らないのだが、『ハイコーチャレンジ!!』という地域活性化イベントの一環らしい。色々なことを考えるものだ、と思った。

 

こうした特殊すぎる環境で演劇をやるとして、当然、「廃校の小学校」という要素を用いた演劇というものを考えただろう。

しかしこれは考えるまでもなく難しい。

「小学校で小学校の劇をやる」上で、現実と劇を完全に分離してやることは観客には不可能だろうし*6、現実と劇を織り交ぜてメタフィクションに仕立てあげることは正直言ってハードルが高すぎる。*7

だから、今回のように会場と関係のない脚本を選んだことは、無難で理性的な判断だ。

だが一方で、学生なのだし、もっと冒険してみても良いかな……? とも少し思ってしまう。これはおそらく好みの問題だ。

しかし、メタフィクションをやるとしたらどうする? ちょっと考えてみるのは面白い。

 

何にせよ、廃校の小学校で演劇をやる(見る)というのは双方にとって面白い試みだっただろう。それを単純に喜ぶべきなのだと思う。

 


□まとめ
重いテーマに挑み、演じきった、という点が素晴らしかった。
僕は岡山大学演劇部の公演を見るのは初めてだったし、廃校の小学校なんて所に来るのも初めてで、色々と面白い体験が出来た。
楽しい時間を、ありがとうございました。今後の活躍に期待しています。

 

 

■個人的な思い出
ちょっと他者の個人情報的な話ですが、すみません、書かせて下さい。

僕の近くの席に、地元の女子高生と思われるグループが居た。
劇が終わった時、

「ほら、面白かったでしょー!」
「面白かった! 大学の演劇って凄いんだね。○○が、この大学の演劇部に入りたいって言ってるのも納得した!」
「でしょ? 私、本当にここに入りたいんだ!」

という会話をしていた。

 

いいものを見たな、と思った。
やはり公演という行為は素晴らしい。今後もどんどんやっていってほしい。

 

 

 

 

 

*1:ネット上で名前を公開していないようなので,ここでも伏せておきます。

*2:これが演劇6本目くらい

*3:あるいはしなかった

*4:「起」→事件の謎、「転」→事件解明、「結」→エリの変化

*5:彼女のシーンは台詞も良かったですね

*6:なにせ彼らは、昇降口から入って階段を登りここまで来たのだ! それを忘れさせるのは至難の業だろう。

*7:寺山修司『青ひげ公の城』素晴らしかったです。