kenpi20の灰色マインドマップ日記

都内で暮らす会社員のライフログ、現状把握、自己分析

【演劇感想】 ミュージカル『青ひげ公の城』  ――「誰にも分からないように書く」という手法。

 

昨日、初めて劇場で演劇を見てきた。

寺山修司作・ミュージカル『青ひげ公の城』だ。

http://music.geocities.jp/ryuzanji3/r-blueb.html

 

 

なんだか物凄い演劇だった。

正直言って、初心者が見るのには適さないほど高度だった気もするが、とにかく非常に面白くて、興奮した。


そういう訳で、あらすじをここに書いておく。

(途中からネタバレ部分は反転)

 

 

---


まず、この劇の集合場所は劇場ではなく、「劇場の近くの公園」だった。
僕らがそこに行くと、スタッフらしき女性から、紙を渡された。

 

その紙には「"青ひげ公の城"公開オーディション」と書かれており、その下には登場人物のセリフが書かれていた。

 

しばらくすると、公園の真ん中で、舞台監督(に扮した役者)が言う。

 

「皆さん、公開オーディションにお集まりいただき有り難うございます。では、早速オーディション開始です。皆で、紙のとおりにセリフを読みましょう」

 

つまり、この演劇の観客は、観客でありながら、"オーディション参加者"という役も持たされているという訳だ。

 

皆でセリフを読み終えると、舞台監督(に扮した役者)が言う。

「有り難うございます、オーディションは終了です。結果発表は、あちらの劇場で行います」

そしてようやく、劇場が開場となる。

 


---


そこから先は、普通に座って演劇を見るのだが、その内容もかなりぶっ飛んでいた。

 

主人公は、先ほどの"青ひげ公の城"オーディションに合格した、という設定の少女。

彼女は舞台監督(に扮した役者)に「控室で待っていろ、他の部屋には行くな」と釘を刺されるが、他の部屋が気になる。なにせ、相手方の男性俳優すら誰か知らないのだ。

 

普通に解釈できるのは、おそらくここまで。

その後少女は、(おそらく)控室を出て他の部屋をめぐる。そこでは共演者らしき人々や、全く別の劇に出演予定の俳優たち、そして裏方の人間たちに会う。

 

彼らは基本的に少女を見ず、彼らの世界で、歌ったり憎んだり、人を殺したり、独り言を言っている。

そういう言動の所々で、一部の人が「なあんてね、今のは芝居の練習だよ」と言ったり、「カット!」という音とともに、脚本家らしき人が脇から出てきたりする。

が、どこからが芝居でどこからが現実なのかは明かされない。

彼らのセリフもほとんどが意味をなさない(なしているのか分からない)。

「ここまでが芝居」という演出が何度も重ねられて、そもそも最初の話の筋すら怪しくなる。

 

---

 

そんな様相で劇は進行し、中盤、少女は自分が役者を目指し始めた理由を語る。

彼女には兄が居た。彼はこの劇団に入り、役者を目指したが、諦めて照明係となり、今は行方不明だそうだ。

そこで、彼女は劇団に入り、兄の行く末を知る人物を探していたのだ。

 

舞台監督たちはそれを聞き、慌てた様子で話をはぐらかす。

そんな中、ある女優が言う。

「あの照明係は、私がこの手で、劇の本番中に殺した」

 

少女は驚く。が、その「殺した」というのが、劇の中での話なのか、実際の殺人なのかが分からず戸惑う。

周囲の意見も混沌を極める。

「劇の中で死んだのだ。劇と現実では嘘と本当が逆になるから、現実では死んでいないのだ」

「彼は劇の中で、死ぬ芝居をしたのさ。劇と現実では嘘と本当が逆になるから、現実では、芝居ではなく、実際に死んだのさ」


そして、ついに始まる公演"青ひげ公の城"。

 

舞台に一人立たされた少女は、ついに、兄がどこへ消えたのかを悟る。
少女は一人で、台詞とも本心とも取れる朗読を続け、そして少女は、舞台から(実際の)観客席に降り……

 

※↓以下、ラストのネタバレ反転↓※

 

 

少女は、(実際の)観客たちの間を走りまわりながら叫ぶ。

「兄は消えた。月よりももっと遠い場所……劇場に!」

そして少女は(実際の)劇場の扉を開け、(実際の)夜の街へと走り去っていった。

演劇はここで終わる。

 

※舞台の上には誰もおらず、(実際の)観客達だけが静まり返っている中、観客席に明かりがつき、
「足元にお気をつけてお帰り下さい」とのアナウンスが流れた。

そこでようやく、僕は劇が終わったことを知った。

 

 


※↑ネタバレここまで↑※

 

 

言っておくが、これは無名のサブカル演劇ではない。

国内演劇の巨匠・寺山修司*1の作品である。

 

見終わって、僕はしばらく呆然とした。


僕は、物語というものは『分かる』ように書かれるものだと思っていた。
難解な作品であっても、『時間をかければ誰かは理解できる』(それを作者が期待する)ように書かれるものだと思っていた。

 

しかし、この演劇は違った。

『誰にも分からない』ように書かれているようにしか思えない。

意味を込められているのか、それすらも推し量れない。

それが何より衝撃だった。

 


最初にも書いたが、これは初心者が軽い気持ちで見る劇ではないのかもしれない。

だが、少なくとも僕には響いた。久しぶりにわくわくした。

 

僕がおぼろげに感じていた、「演劇って面白そう」という予想は、間違っていなかった。

 

分からないことがある、というのは幸福なことだ。

観に行けて良かった。

 

 

*1:『書を捨てよ町へ出よう』の作者、と言えば分かっていただけるだろうか